CRUNCH 代表 山口晃生

ーまずは山口さんの経歴を簡単に教えて下さい。

名古屋生まれでずっと名古屋で育ちました。今は結婚して瑞穂区に住んでるんですけどね。服飾業界との出会いは、パルコでの販売員が最初です。3年くらい働いて、その後、とにかく男を感じる仕事がやりたかったので、トラックに乗ったり、力仕事系をやりましたね。それが24歳くらい。その時に結婚したんです。で、結婚したんだけど、それまで就職した事が無くて、当時はフリーターじゃないですか!? 「これじゃ〜奥さんの親にも示しがつかん」という事で、何かをやろうと思った時に一番初めに頭をよぎったのが古着屋だったんですよ。元々、古着というよりも古い絵画やポスター、インテリアを集めていたので、そっち系がやりたかったんです。絵画やポスターの作者が服も作っていたりしていたので、その流れで服も集まっていたんです。必然的に古着も好きになってて、「じゃー始めよう」と。最初は自分のコレクションを売っている状態でしたね。

ー初めにお店を構えたのはどこですか?

最初は若宮大通沿いの2階でした。そこで4年くらいやって、それからは赤門通りのお店で今に至るという感じです。初めから今の店名の『CRUNCH』のまま変わらずにやってますよ。由来も、テナントを決める際の1週間くらいで決めて、準備も何も、古着の買い付けのルートも知らずに始めてしまったんです(笑)。でも、元々海外旅行は好きで、向こうに行ったらお菓子も集めてたり、色んな物を買ってた中に“CRUNCH”っていうアイスクリームがあって、奥さんの「これでいいんじゃない!? 」っていう後押しもあり、決まった感じです。そのままの書体を使って、作りました。25歳から始めて今年で9年目、本当に名前は急遽決めたので、何の理由も意味もないです。ただ好きだから。

ーご自身のコレクション以外に始められる時の開業資金はどれくらいでした?

大体300万くらいですね。元々の物件がスケルトンでトイレも水道も何もない所で、下水工事も電気工事もやっていたら、内装にお金が回らなくなって、結局自分でやらなければいけなかった。ギリギリな感じでしたよ(笑)。オープン当初は仕入れもあまり出来ていなかったので、古着屋というよりも自分のコレクションを売るセレクトショップのようなお店でしたね。売れたら2週間休んで買い付けに出て、戻って来て売るっていう。そんなサイクルなので、1ヶ月に1回は買い付けに行ってましたよ。そんな状態が最初の1年は続きました。

ーでも、お店を見ると、原さんからの質問にある通り「どうしてそんな良品ばかり揃えられるの?」って思いますよ。

そうですかね〜。でも、他のお店のバイヤーさんもそうだと思いますけど、いろんなルートがある中から、良いルートを確保できるかどうかですよね。今では隔月で買い付けに行っているんですけど、10日〜2週間の間で普通に集めようと思ったら集まらないと思うんですよ。だから、ひとりアメリカに駐在させて、L.A.以外の場所にも色々と回って集めてもらっているんです。随時良品が見つかったら、PCのSkypeを使って連絡を受けてます。ちょっと高額のモノだったら、連絡を受けて画面上で見て、交渉したり…特別にしている事って言ったら、そんな事くらいですかね。あとは単純に運が良いだけ(笑)。ここ5年くらいはそんなやり方をしています。家具なんかもアメリカの倉庫に置いて、必要なモノだけをこっちに持ってきていますね。

ー買い付け時に気を付ける事ってありますか?

他店には無いアイテムを見つける事もそうだし、他店よりも安価で仕入れる事も…両方大事ですよね。やっぱり、他のバイヤーさんの買い付けたアイテムは気にはなるので、結構見ますね(笑)。でも、「アレ良いな〜」って思っちゃったら、それしか探さなくなってしまうので、反面、見ない様に気を付けてます。お店に並ぶアイテムは、僕個人の感性を信じて買い付けたモノなので、お客さんに気に入られるモノと気に入られないモノっていうのが、はっきりと分かれてますね。結果を見てみると、大体7割はダメで、3割が売れる。その3割は満足して買ってもらえるんですけどね。その7割は残っていきますからね(笑)。僕らが買い付けに行く時っていうのが、一般のお客さんでも知っている“Rose Bowl(L.A.のフリーマーケット)”を目指して行くので、全国の様々なバイヤーさんと会いますよ。だから、かぶりまくりです(笑)。でも、その分、さっきも話した現地にいるバイヤーが他の場所で集めているので、L.A.に無いモノを引っ張れるっていう点では、他店よりも優れているかなって思います。去年の終わり頃までは、現地のスタッフに任せて僕自身は買い付けに行ってなかったんですけど、レディースを始めるのと、最近はお客さんが手厳しくなってきているので(笑)、自分自身で見て買い付けてますね。

ーやっぱり最近はお客さんの目が厳しくなってますか?

いや〜厳しいですね(笑)。2年くらい前から顕著に感じられるようになってますけど、結構知識先行であったり、知識が豊富ですね。僕らがお店を始めた頃は、知識やサイズ感に対して、それほど厳しくなくて、言い方悪いですけど、何でも売れた感じだったんですよ。今はSサイズ限定で探していたりして、視野が狭くなっている気がします。10人いたら7人が同じ様なアイテムを求めてる印象を受けますね。そうなると全国のバイヤーさんも同じ様にそれを求めて買い付けるので、必然的に数が少なくなる。そういったお客さんは、若い方に多い気がします。年配の方は逆にちょっと古くて、面白いモノに触手を伸ばしている印象ですね。結局、古着をサンプリングした新品がセレクトショップなどで売られて、それはサイズ感はバッチリなんでしょうけど、値段がするから、逆に古着屋にそれを探しに来る。でも、今度はサイズ感が合わなくなる…そんな感じですよね。そういう所をどうにかしたいですよね。本来の形を成している古着のアイテムと、流行りを落とし込んだ新品を比べて、着丈が長い、身幅が大きい、アームが太いなどと言われてしまう。今年は特にミリタリーが流行ると言われているじゃないですか、そこでタイトなミリタリーと言われても、元々タイトなミリタリーなんてないですよね。

ーそういった知識先行や本来の古着の良さを理解していない方に対して「うぅん!? 」と思うときも、やはりありますか?

そうですね〜正直…ありますよね(笑)。タグを見てから決める人もいますから。形やデザインではなく。例えばちょっとでもポリエステルが入っていると、「コットン100%じゃないから嫌だ」とか。あとは、ブランド名指しで来る方もいますね。中途半端に知識がある分、難しいですよね。あったとしても今度は希望のサイズがないだろうし。

ー先ほど厳しくなっている状況をどうにかしたいとおっしゃいましたが、具体的にどのような事で?

それは特にはないですけどね。うちのお店のスタンスもあるので、僕らのやりたいようにやればいいのかなって思います。それに関係するかどうか分かりませんが、メンズとレディースを分けて、レディースの方は女性のスタッフに任せてます。メンズに関しては、僕とスタッフの欲しいモノを扱っていこうかと考えてますね。このお店が好きだから買いに・遊びに来るお客さんを大事にしていけば良いのかなって、最近特に思います。そうすれば、「うぅん!? 」と思う様な事もなくなっていくと思いますから(笑)。そんな方々は来なくて良いと考えるんじゃなくて、古着の良さを伝えられればなって思う様になりました。だから、服ばっかりじゃなくて、雑貨やインテリアなど、ライフスタイルに根ざしたアイテムを扱っていく予定です。10代後半〜20代前半ってやっぱり遊ぶにしても、デートするにしても、身なりを最重要視してましたけど、年齢を重ねていくにつれ、その服を掛けるハンガーや生活をする自分の部屋にまで、こだわっていくと思うんですよ。僕自身がそうでしたから。そうすれば、今度は逆に服の見方も変わると思うので、相乗効果的にも良い事だと思うんです。服だけではなく、トータル的に扱えるお店作りをしていきたいです。そうなると、さっきの話のようにピンポイントに「これが欲しい」っていうお客さんの要望には応えられなくなると思うので、そういう方には周りの良いお店を紹介すれば良いのかなって思います。

ーそうやって、お店同士の住み分けがされていくと、大須の街自体が面白くなりそうですね。

だと思いますね。こうやって赤門周辺でお店をやらせてもらっていると、個性のあるお店が多いんですけど、結構似た様なアイテムがあったりする事も多いんですよ。だったら、うちは違う事をやった方が良いと思うので、そうしていきたいですね。売れなくなった訳じゃないですけど、元々インテリアが好きだったっていう事が関係して、そういうお店作りがしたくなりましたね。25歳以上のお客さんに支持される様なお店にしたいです。

ーやっぱり山口さんの自宅にもそういったインテリアが多く、好きなモノに囲まれた生活ですか?

それは、奥さんに了解をもらってからですね(笑)。ポスターも無闇には貼れないです(笑)。家の主導権は完全にあっちです。買い付け時に「これ、家に置きたいな」って思って買って来ても、「これはダメ! 」って言われたら、お店で売ってますもん(笑)。仕事に関しては何も言わないんですけどね。レディースに関してもノータッチです。元々古着とかは好きだったようなんですけど、子どもが生まれたりしたら、あまり着ない様になってますね。

ー原さんから「娘さんがいるようですが、プライベートではどんなお父さんなんですか?」って質問をもらいました。

今話した通り、奥さんには頭が上がらない感じです(笑)。プライベートですか〜普通だと思いますね。週1回しか休日が無いので、子どもと遊ぶのが多いですね。5歳の娘なんですけど、可愛い5歳ですよ(笑)。最近、あんまりチューしてくれなくなっちゃたんですよ(笑)。もうすぐ小学校なんで、女の子はそうなるとあんまりお父さんと遊んでくれないですよね!? ……あんまりこんな話をした事ないので気まずいですね(笑)。でも、彼(前回登場の原さん)もプライベートの話をしないし、そういう話を聞いてこないですよ。僕も聞かれなければしないですからね。彼は夜も遅くまで仕事する人なんですけど、僕は21:00になったら家に帰りたい人なんで(笑)、飲みにもあまり行かないですね。21:00以降はプライベートの時間としてキッチリしたいので、電話にもあまり出ないです。彼とは営業時間に話をしたり、買い付け時に話せるので「改めて飲みの席で話を」とはならないですよ。というのも僕がお酒をほとんど飲まない・飲めないというのもありますけどね(笑)。

ー原さんからの最後の質問です。「すごく努力してると思うのですが、その姿が全く見えない。どのようにしたらいつもマイペースな姿でいられるんですか?」

それ、知り合った人からは確実に言われるんですよ。「マイペースですね」って。でも、確かにマイペースなんですよ(笑)。でも、話も聞いているし、すごいしっかりしているつもりなんですよ。けれども、人からは「マイペース、ずぼら、根拠の無い自信がある」って言われるんですよ(笑)。プライベートと仕事を分けているっていうのもあるんでしょうけど、ストレスを感じないのが一番でしょうね。とにかくストレスが何かわからない(笑)。それが逆にストレスですよ(笑)。あんまり深く考えない。「これダメだな」って思ったらやらないし、「こっちのが良いな」って切り替える。親にも奥さんにも言われるので、昔からなんでしょうね。お店をやり始めた時もそうですね、ひとりでやっている時は接客もほとんどせずに、聞かれた質問に答える程度でした。今では店頭に立つ事も無く、ひたすら裏方に徹してます。むしろ裏方のが好きなんですよ。表に出るっていうのが、あまり好きではないんですよ。今のご時世では、接客の無いお店のままではいけないんでしょうけど。好きに見させてもらえない面もあるので、あまりがっつり接客されるのは、個人的には好きじゃないんですけどね。結局マイペースなんでしょうね。「あとからやればいいや」って思っていると、スタッフ達が片付けている。我ながら良い教育が出来ていますよ(笑)。