「やる」と決めたら「やる」。
佐藤嘉洋
佐藤さんといえば、数々の輝かしい戦績を残したキックボクサーとして有名ですが、そもそもの話、どうしてキックボクシングをはじめたのですか?
中学のとき、元世界チャンピオンの畑中清詞さんのジムが僕の地元にできるってことを知り、そのジムに友達と行こうかという話になったんです。でもある日、その友達と壮絶な殴り合いのケンカをしてボッコボコにされたんですよ。もう、顔面が腫れあがるくらい。
ええ~?
KOはされませんでしたけど、判定だったら確実に完敗でしたね。それが悔しくて「あいつがボクシングやるなら、俺は足も使えるキックボクシングやってやるよ!」という流れで、次の日に近所のキックボクシングジムに入りました。
次の日?早いですね!
やると決めたらすぐやるタイプなので。引退も早かったですよ。周りのみんなは引退まで1~2年は考えるみたいですけど、僕は3日で決めましたから。
そのとき即決できた一番の理由は何だったのですか?
2戦連続KO負けをしたんです。僕は、丈夫で骨太の闘い方がウリで、派手な試合をするのではなく強さで魅せてきたのに、それがモロくなってしまったので「もうアカンかな」と。でも、その時点で次のK-1の世界トーナメントに出場することが決まっていたんですよ。ポスターの真ん中に主役扱いでダーンと(笑)。で、KO負けした日に関係者と「どうする?」という話になって一旦保留したんです。でも、気付いたんです。今までの自分だったらどんなことがあっても出ていたはずだと。迷った時点でもう出る資格がない…というより失礼だと。だから、代役を探すのも大変なので一刻も早くキャンセルを伝えて、負けてから3日後に引退しました。
すごい決断力ですね!サムライを感じます!ところで、全然想像できないのですが、試合の前ってどういう心境でしたか?
怖くて仕方なかったですね。死ぬかもしれないので。だから、自分が殺されないためにも、試合のときは相手を殺すつもりで臨んでいました。試合がはじまってしまえば怖いとかそういう感情はありません。パンチ効かされて意識が飛んじゃうことはありましたよ。アルバート・クラウスとの試合では、左フックを食らって失神している状態なのに「来いやオラー!」ってやっていたみたいで、アナウンサーに「なんと佐藤、コイコイだー!」って実況されていました(笑)。あのときの記憶はまったくありませんけどね。
そうなんですか!?あとでその試合YouTubeで見ておきます!ちなみにですが、対戦した中で一番強いと感じた相手は誰でしたか?
ブアカーオです。とにかく隙がなくて。隙がないやつが一番やりにくいですね、試合でも人生でも。彼とは4回もやったんですが、1戦目では僕の前蹴りを掴まれてからの左フックで鼻を陥没骨折させられて、2戦目も延長までいったものの判定で負けて、3戦目でとうとうKO勝ちできて…。映画にしてもらいたいくらいです。
4戦目はやらない方が良かったですね(笑)。
そうなんですよ!4戦目は「やれ」といわれたのでやっただけです。自分の中で「やれ」といわれた試合は必ず「やる」と決めていたので。だから負けの数も多くなっちゃった(笑)。結構みんな相手を選んでやるんですけどね。
ちなみにですが、魔裟斗さんとの例の一戦は…?
3Rが終わった時点で勝ったと思いました。でもそれは自分の悪い癖で、勝手に勝敗を決めちゃっていたんです。だから延長戦のときは全然集中力のない状態でしたし、そこで盛り返してきた魔裟斗さんも凄いと思うし。僕が魔裟斗さんの立場だったら、僕の手を挙げて「お前の勝ちだよ」ってやっていたかもしれない。一見、それは潔くもあるけど、一方ではただ諦めているだけとも捉えられますよね。ただ、当時のK-1は魔裟斗さんのためにつくられた場所であり、それをふまえた上で僕は乗り込んでいったのであれば、もっと勝利に執着するべきだったとも思いますし…。だけど、あれで良かったんだと思います。あそこで僕が勝っていたら、今でもこれほど話題にされることはなかったかもしれないから。一昨年の同窓会でもあの試合の話になり、僕ではなくて友人たちが取っ組み合いのケンカをはじめちゃって、僕が「オイオイやめろよ」って止めました(笑)。
なんかそういうの、いいですね。とはいえ、もしも勝っていた場合の人生について、考えたことありませんか?
ありますよ。ひょっとしたら、もっと有名になって、アイドルと結婚していたかもしれない(笑)。けど、負けた後じゃなければ知り合えなかった人たちが居たのも事実で、僕は現在の自分を取り巻く環境に凄く満足していますからね。だから、負けて良かった。答えは出ています。
素敵な考え方だと思います。そうそう、佐藤さんは現在、名古屋でジムと整骨院を経営していますが、もともと名古屋なのですよね?
そうです。生まれてから小学校に入るまでが西区、それから結婚するまでは北区の平安通で、2011年からは千種区の星ヶ丘に住んでいます。ただ、現役のときはちょっと大変でしたよ。当時、ママチャリのカゴに練習道具を入れてジムに向かうのが僕のスタイルだったんですけど、北区に住んでいたときは数分でジムに行けたのが、こっちに来てからは40分くらいかかるようになって。練習以外のときは絶対に疲れたくなかった僕は、住みはじめて1ヵ月で12万円の電動自転車を買っちゃいました。
12万!結構高いですね!
でも、当時のレートからするとジムまで車で通うのに1回あたり約500円のガソリン代が必要で、週に6日、ひと月だと12,000円もかかる計算で。もともとゼロ円だったのに、すげえもったいないなと思って買いました。240回くらいで元が取れるかなと。だから、星ヶ丘から志賀本通まで40分くらいかけて、一生懸命通いましたよ。雨の日も雪の日も、道行く人に「あれ佐藤じゃない?え?電動?」とか囁かれながらも。で、一年くらいそれを続けて「とうとう俺は元を取ったぞ」と思ったころにバッテリーが切れて…。交換するのに数万円かかると知ったとき、心が完全に折れました。でも今思うと、電動自転車とはいえ疲れるんですよ。そこで使っていた体力を練習に費やしておけば、勝ちの数も2つは増えていたかもしれない。となると、得をするために選択した自分の行動によって、結果的に損をしていたわけで。嫁からも思われていたみたいです。一時期、小牧市にある筋トレのジムにも節約目的で電動自転車で通っていた僕のことを、嫁は「どうせこいつに何を言っても聞かないし、馬鹿だなあ」って諦めていたらしいです(笑)。
なんか、いい奥さんですね!(笑)そんな奥さんとはどのようにして知り合ったのですか?
コンパです。僕の一目惚れでした。付き合って2年で結婚しました。「私にはタイムリミットがあります。タイムリミットがいつなのかは教えませんが、そのときが来たら、私は風のように消えます」と言われたので、もう結婚するしかないですよね。
強いですね、奥さん(笑)。ところで、今回佐藤さんを紹介してくださったMITSUさんとはいつからの知り合いなのですか?
白川公園で行われたライブのときに紹介で2005年に知り合いました。僕がK-1に出はじめた年です。それまでの自分は、キックボクシングで世界を獲っていたものの全然有名になれなくて、色々とジレンマを抱えていました。でも、K-1に出たことによって知名度も上がり、そういうなかでnobodyknows+という僕と同じように地元を大事にするメジャーな人たちと対等な立場で話ができたことは新鮮で、うれしかったですね。
ではここらで、そんなMITSUさんからの3つの質問いきます!ひとつめ「魔裟斗選手との死闘が収録されたDVD、まだ返してないんですけど…ひょっとしてバレてますか?」
え!? MITSUさんが持っていたんですか!? まったく覚えていませんでした。このまえアマゾンで買っちゃったじゃないですか!早く返してください(笑)。
続いてふたつめの質問!「目の前にいる土井ちゃんですが、佐藤嘉洋ランキングに入れそうですか?もし入れるとしたら現在何位でしょう?また入れないのであればその理由も(紳士的に)お願いいたします」って、何ですかこの質問? 佐藤嘉洋ランキング???
あるんですよ、佐藤嘉洋ランキングというものが。僕はアイドル評論家としても活動していて、自分の気に入ったアイドルに順位をつける、それが佐藤嘉洋ランキングです。アイドル好きになったのは、実家が喫茶店をやっていたことで色んな週刊誌を見る機会に恵まれていた環境が背景にあり、宮沢りえがはじまりでした。ちなみに土井ちゃんの順位は…ランク外です!
え~!どうしてですか?
個人的にはそのガチャピン顔は好きな部類ですが、僕、グラビア好きなんですよ。土井ちゃん、ビキニとかなれるの?
その話、もういいです!(笑)ではラストの質問!「格闘家を志す少年たちに向けて…、選手としての現役時代(そんな事があるワケないとは思いますが)ホテルの部屋に間違って入ってきてしまった芸能人をイニシャルでお願いします。無いようでしたら『格闘家になるとこんないいとこあるある』お願いします」
ええ~っと、まず、ホテルの部屋に間違って入ってきた芸能人でしたっけ?そんなのいません!いても絶対に言いません!もちろんイニシャルでも!あと、格闘家の特権あるある…でしたっけ?それはありますよ。格闘技は人を強くしてくれる素晴らしいものです。肉体的にも、内面的にも。僕は「強い子はやさしい」と思います。自分を鍛えることで自信がつき、人にやさしくなれますから。
ホテルの部屋に入ってきた芸能人については気になるところですが、格闘技の魅力、伝わりました!佐藤さん、今回はありがとうございました!
プロフィール
佐藤嘉洋
名古屋出身の世界的キックボクサー。現在、瑞穂区の「名古屋JKフィットネス」、西区の「ぶる~と整骨院」「喫茶アミー」を経営。アイドル評論家としても活動。1981年生まれ。オフィシャルブログ「明るく生こまい」。
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この記事のインタビュアー
プロフィール
土井沙織(26歳)
”女性が憧れる女性”をコンセプトに、新しいスタイルの音楽・ファッションアイコン・エンターテイメントに特化し東海から世界に向けて新たなムーブメントを起こすマルチガールズユニット「ISGY」(アイエスジー)のメンバー。YABA COLLECTION 2016にてデビューを飾る。